エビデンスブログ vol.5『最新の荷重プロトコル?』

こんにちは、エビデンスブログ編集長の丸尾勝一郎です。
今回も期間があいてしまい、申し訳有りません。これからは月1回くらいのペースで頑張ってアップデートしていきたいと思っています!

さて、前回は、「4つの治癒期間」と「3つの荷重期間」の組み合わせがあるということ解説しましたね。(復習したい方はこちら ↓)
https://www.katsuichiro-maruo.com/evidenceblog/2019/02/vol-4/

昨年開催されたITIコンセンサス会議では、治療期間のType1〜4は
Type1::Immediate Placement
Type2/3:Early Placement
Type4:Late Placement

という定義になりました。

加えて、荷重期間を
A:即時荷重
B:早期荷重
C:通常荷重

という分類にしました。

両者を組み合わせて、例えば抜歯即時埋入+即時荷重の場合「Type1A」と表すことになりました。(ちなみに、私のハーバード時代のボスであるDr.Gallucciが定義したようです。)

さて、第5回は「インプラントの最新の荷重プロトコル」の中でも、まず抜歯即時埋入・即時荷重(Type1A)を行う条件についてエビデンスとともに紐解いていきたいと思います。

まず、抜歯即時埋入の条件を考えてみましょう。
抜歯即時埋入で最も留意すべき事項は
1. 抜歯窩があっても初期固定が得られるかどうか?
2. 抜歯後の骨吸収の程度が予想できるか?

ということになります。

まず1つ目の、初期固定を得るための条件ですが、抜歯窩以外でインプラントが固定できる既存骨が必要ということなります。したがって、それを満たす条件は以下のようになります。
-インプラントが抜歯窩より長い(抜歯窩の根尖を超えた部分の骨で初期固定を得る)
-インプラントが抜歯窩の間あるいは側壁の骨で固定される(複数根の中隔部や舌側骨)
-インプラントが抜歯窩より太い

実際のところ、抜歯窩よりも太いインプラントを選択することは非常に稀なので(インプラント除去部に太いインプラントを選択することはありますが)、実際の抜歯即時埋入の条件は最初の2つということになります。しかしながら「インプラントが抜歯窩より長い」という条件は、上下顎臼歯ではそれぞれ、上顎洞と下顎管という解剖学的制約があるため、適応は限られます。
また、複根間の中隔の骨も薄いことがあり、臼歯ではなかなか適応症例が少ない理由がわかると思います。(後で話しますが、臼歯への抜歯即時埋入は禁忌ではありませんし、むしろ適応であれば積極的に行うべき手法だと私は考えています。)

次に、2つ目の抜歯後の骨吸収の程度が予想できるか?という部分は、特に審美エリアにおいて重要になってきます。その観点から、Cosynらは抜歯即時埋入インプラントの歯肉退縮を回避するファクターとして以下の4つをあげています。
-頬側骨壁が十分にあること
-Thick Flapな歯肉のバイオタイプ
-フラップレスでおこなうこと
-即時修復をおこなうこと

抜歯即時埋入の場合、周知の通り十分な頬側の骨壁がないと抜歯後の骨吸収が予測できず審美的合併症につながることがよくあります。粘膜の厚みが厚くフラップレスで行った方が当然粘膜の退縮は少ないということは直感的にわかると思います。また、抜歯即時埋入ではインプラントを粘膜で完全に被覆することが難しいため、即時修復するか、あるいはカスタムヒーリングキャップなどで、開放創部を封鎖する必要あります。

では、次に即時荷重が可能となる条件とはなんでしょうか?
即時荷重の際に考えるべきことは、埋入時に得られるPrimary Stability(いわゆる初期固定)とよばれる既存骨との機械的固定と、オッセオインテグレーションが獲得されるSecondary Stabilityまでの間に、インプラント周囲の骨がリモデリングし骨との接触面積が一時的に落ちるStability Dipと呼ばれる時期をいかに何事もなくやり過ごすかということが重要となります。

Gallucciらは以下のように定義しています。
-大きな骨造成がないこと
-十分な骨質であること
-インプラント長径が8.5mm以上であること
-初期固定が30N/cm以上、またはISQが60以上であること
-パラファンクションがないこと

つまり、いかにPrimary Stabilityを維持しながら、咬合力を最小限にするかというのが重要になるわけですね。

Gallucciらは、最新のITIコンセンサス会議でこれらをまとめ、「抜歯即時埋入・即時荷重(Type1A)」の条件として、患者にとって十分なメリットがあることが前提のうえで、下記の条件を満たすことを提唱しています。
-損傷のない抜歯窩壁があること
-厚い軟組織であること
-急性症状がないこと
-初期固定を得るための骨が抜歯窩の根尖側および舌(口蓋)側にあること
-初期固定トルク値が25-40NcmまたはISQ値が70を超えていること
-機能時のプロビジョナルを保護する咬合状態があること
-患者のコンプライアンスが高いこと

以上、7つが「抜歯即時埋入・即時荷重(Type1A)の条件ということになります。

いかがでしょうか?抜歯即時埋入・即時荷重というと、かなりチャレンジングな、あるいは無謀だと思っていた方も、適応症例を理解すればそれほど難しいものではないように思っていただけるのではないでしょうか?

第6回の次回は前歯部における荷重プトロコル戦略について述べていきたいと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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【編集後記】
だいぶ時間が経ってしまいましたが、3月にドイツはケルンで行われた国際デンタルショー(IDS)に参加してきました。今年のドイツはとても寒く体調もすぐれず、思うようにたくさんは回れなかったのですが、全体的に2年前に比べるとやや盛り下がり傾向かなという感じでした。一番の目玉は口腔内スキャナであることは間違い無いのですが、新しい情報としては、TRIOS4やiTero、Plannmecaでカリエス検知機能が搭載されたことでした。
しかし、機能としては、ちょっとショボい、、、という感じで、少し拍子抜けでしたね。また、CT顔貌をスキャンする機能が搭載され、CT、口腔内スキャナに加えて、第3の生体情報のデータ化の仲間入りとなりました。これにより、今までデジタルではできなかった正中位置やインサイザルエッジ、咬合平面の決定がデジタルでも可能となり、こちらは今後が楽しみですね。
参加者も、どの口腔内スキャナを買うか?という感じで、スキャナが完全に臨床に浸透していくことを肌で感じました。
日本でも、来年の保険収載がまことしやかに囁かれていますので、口腔内スキャナがユニットに標準装備される日も近いのではないでしょうか。
歯科2.0セミナーではこれから口腔内スキャナ以外にどのデジタル機器を導入すれば良いのか、そこらへんも解説したいと思っていますので、ぜひご参加お待ちしております。

【発行責任者】三軒茶屋マルオ歯科 丸尾勝一郎
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