エビデンスブログ vol.2『エビデンスレベルとは②』

こんにちは、エビデンスブログ編集長の丸尾勝一郎です。
第1回では、多数の文字化け大変失礼いたしました。
このメルマガは、一発勝負なので投稿ボタンを押すときは大変緊張します。

さて、第2回のテーマも“エビデンスレベル”についてお話ししたいと思います。

前回は、「ただ症例を何例かやってみたら上手くいった」という論文を読んで、日常臨床に活かすのは非常にリスクが高い、という話をしました。理由は「バイアス」という存在のためでしたね。

では、どのようなエビデンスレベルの論文を読み、日常臨床に導入すれば良いのでしょうか?

第2回ではこの「臨床に取り入れるべきエビデンスレベルとは」についてご説明していきたいと思います。

エビデンスレベルは上から

1.メタアナリシス・システマティックレビュー
2.ランダマイズド・クリニカル・トライアル(俗にRCTと呼びます)
3.コホート研究
4.ケースコトロールシリーズ
5.ケースシリーズ・ケースリポート
6.専門家による意見

という序列になっています。
(バックナンバーvol.1にわかりやすい図が載っています。)
こちら→https://www.katsuichiro-maruo.com/evidenceblog/2018/11/vol-1/

まず必ず覚えておいていただきたいのは、最上位にあるメタアナリシスやシステマティックレビュー(以下まとめてレビュー)です。これらは実際に研究や実験をした論文ではなく、あるテーマに関するたくさんの論文をまとめ、徹底的にバイアスを排除し客観的に評価した論文となっているため、エビデンスレベルの頂点に君臨しているんですね。ちなみに、メタアナリシスとはそれぞれの論文で報告された成功率や発生率などの数値データを網羅的に統計解析したものをさします。これによって、ある術式や薬剤などの効果が他と比較し統計的に有意差があるのかを調べることができるわけです。

しかし、この論文をまとめた“レビュー”ですが、実際にはいろんな人がいろんな考えでおこなった研究デザインなので、なかなか条件を揃えた状態で比較したり、一つにまとめたりすることは容易ではありません。これを論文の中の用語でheterogenous / heterogenic(異種起源の、異質性の、不均一な)といいます。このheterogenousityのせいで「どちらの術式が良いかは評価できない」という結論のレビューも多く存在していることも事実です。

では、レビューで十分な結論が得られない場合は、そうすれば良いのでしょうか?

その次にエビデンスレベルの高いRCTがあれば、これが最も採用すべきエビデンスとなります。ちなみにRCTは、よく介入研究の際に用いられる手法で、例えばある薬剤を投与した群と、全く薬学的効果のない偽薬(プラシーボ)を投与群と比較し、薬の効果があったかを評価する際に用いられる手法です。ランダム化というのは、できるだけバイアスを排除するために、被験者も術者も評価者も(!)どちらの薬を使っているかわかならない状況だったりします。(二重盲検法などと呼びます)
これなら、さすがに信憑性が高そうですね。

しかし、実際には歯科の領域でこのような研究モデルが適切にあてはまる臨床研究は少ない、あるいは倫理的に問題が生じてしまうというのが現状です。
たまに、スプリットマウスといって、一人の患者に対して両側で異なる術式や材料を用いて比較することがありますが、症例数が集まらないことや倫理的にもハードルが高くなっているので、なかなか難しい研究モデルです。

したがって、実際の臨床研究でよく用いられるのは3つ目のコホート研究ということになります。
このコホート研究は、介入などがない「観察研究」の1つでわかりやすいと例としては次のようなものがあります。

例)インプラント治療を受けた患者を“喫煙者群”と“非喫煙者群”に分けて、10年後のインプラント周囲炎の罹患率を調査し、喫煙とインプラント周囲炎の関係(リスクファクターとなりうるか)を調べた。

仮にこの研究が、これから10年間追跡していくぞ!ということで開始した研究であれば、それは「前向き(prospective)コホート研究」と言います。一方で、ある日思い立って過去の10年を振り返って調査した場合は「後ろ向き(retrospective)コホート研究」ということになります。

では、前向きと後ろ向きだとどちらの方が、エビデンスレベルが高いかわかりますか??

そうですね。「エビデンスレベルは、バイアスが排除されたものが高い」ので、前向き研究の方がエビデンスレベルは高くなります。後ろ向きの場合は、都合が悪いケースは意図的に排除したり、追跡不可能となっている患者が多く含まれていたりする可能性があり、バイアスが大きくなる可能性がありますね。

このように、コホート研究はあるファクターが治療の成功を左右するのかを同定するためにはうってつけな手法となります。
なんとなく、歯科の領域でもいろいろと汎用性が高そうですね。

では、それ以下のケースシリーズやケースリポートは、日常臨床の発展にとって意味のない研究なのでしょうか??
いえ、そんなことはありません。
実は開業医の先生こそ、どんどんケースシリーズやケースリポートを書いて欲しいのです。

第3回は「ケースシリーズ・ケースリポートの読み方と書き方」についてお話したいと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございました。

【NEWS】
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【編集後記】
先日、ITI Study Club仙台@東北大学で「デジタルが変えるインプラント治療の未来」というタイトルで講演をさせていただく機会がありました。デジタルの講演は自分で言うのもなんですが、非常に“水もの”感が強い分野でエビデンスが臨床実感に追いついていないと言うのが本音です。例えば、口腔内スキャナでの撮影方法は現状これ!というエビデンスはありません。したがって、「ある先生はこの順序を推奨します」、「わたしはこの順序で撮影しています」ということが往々にしてあるわけです。この時に、判断すべきはやはり自らの“エビデンスリテラシー”が重要になります。つまり、論理的な思考を見につけ、そのテクニックについて批判的な見方ができるかが鍵となるわけです。
話は変わりますが、昨今にEPARKによるgoogle Mapの電話番号の書き換え問題が話題となっています。もちろん、この業者がやったことは弁護しようがない行為ではあります。しかし、このようなことをされてしまう歯科業界側にも問題があるのかもしれません。玉石混合のネット業者の真贋を見極めるためには、歯科医師自身もネットマーケティングに対するリテラシーを身につけることが重要であるという、多くの示唆に富んでいるのではないでしょうか?
このメルマガが、読者にとって少しでも“エビデンスリテラシー”の向上に役立てば幸いです。

【発行責任者】三軒茶屋マルオ歯科 丸尾勝一郎
【医院概要】https://www.maruo-dental.com/